両性具有迷宮

両性具有迷宮 (双葉文庫)

両性具有迷宮 (双葉文庫)

最近はすっかり活字から遠のいた人生を歩み始めていたんですが(マンガすらも前より読まなくなってしまった)、この前うちのバイト先で本のセールがあったので何か面白いもの無いかなーと物色中に発見。設定もさることながら、主人公の名前が「森奈津子」ということを知って、そのまま迷わず購入しました。
前に同じバイト先で働いてた人が、この西澤さんの『麦酒の家の冒険』がとっても好きだと言うことを聞いていて、結構趣味が似た人だったので私も好きなあと漠然と思ってたんですが、いやはやまさか初めて読む西澤作品がこの『両性具有迷宮』だとは…。
主人公の森奈津子(同姓同名だけど実在の人物とは関係ありません)がふと帰り道に寄ったコンビニで突如起こった爆発事件。けれどそれを感じたのは同じ店に居た女性だけらしく、変に思いながら帰宅すると、その夜サングラスをかけたシロクマのような宇宙人が登場! なんとさっきの爆発はその宇宙人たちが持っていた兵器の一種で、女性に擬似男性器をはやして社会を混乱させてしまおうというものだった! もちろんその場に居合わせた奈津子以外の女性もそんな「両性具有」の体になってしまいパニックらしいが、もとよりバイセクシャルだった奈津子はこれはおもしろい、とあっさり状況を受け入れる。その擬似男性器は一度射精をすれば消えてなくなり、また一眠りすると元に戻るとの説明をしたシロクマ宇宙人は半年以内には元の体に戻すからと告げて、奈津子のもとを去る。その日から擬似男性器ライフを楽しむ奈津子の周りでは、不可解な連続殺人が起こり始め…
というなんともはや、トンデモ展開の話です。SFでミステリ要素もあるんだけど、だからといってどちらのジャンルに入れていいってモノでもない。これはもう、「森奈津子文学」なんだと思います。ところでリアル「森奈津子」の説明を簡単にすると、本作中でも軽く触れられていますが、元はレモン文庫という少女向けレーベルで「お嬢様シリーズ」などといった、今考えるとやっぱりどっかトンデモだったコメディを書いていました。私はこの話が好きで好きで…。主人公のお嬢様(名前忘れたけど綾小路麗華とかそんな名前)がお嬢様のクセに根性があって一本筋が通っててカッコよかったのです。他に女装要素があったり、ああ、もう一回読み返そうかな。そして私が始めて、二次創作(同人活動とも)を無意識に行ったのもこの作品です。*1 
話が脱線しましたが、そんな森先生は近年百合コメディという分野の開拓を着々と進めており、その世界では第一人者として有名人です。この本にもそんな先生のつながりを現すかのように、図子慧、倉阪鬼一郎牧野修、柴田よしき、野間美由紀(敬称略)などなど豪華メンバーが勢ぞろい。読むときは「これはフィクション。実際の人物とは関係ありません」と思いながら読まないといけません。
前述の通り西澤先生の作品は初めて読むんですが、一人称のおかげでさくさく読めました。そのせいかどうかはわかりませんが、やたら体言止が多かったんですが、これとは別の「森奈津子」主人公の作品名も『なつこ、孤島に囚われ。』も体言止だから、リアル森先生の喋り方がそうなのかもしれない。そして何より本書の怖ろしいところは、西澤先生が森先生の名を借りて書いた小説にも関わらず、読んでいるうちにこれは森先生が自分を主人公にして書いた小説のように思えてくることです。それだけ主人公としての影響力が大きいってことなんですが。この作品も「両性具有」がキーとなってるだけあって、エロスな表現が多々あります。本当は男性の西澤先生が書いてるのに、まるで森先生が自身の体験を書いたみたいな文体。読んでるうちにどんどん混乱していきます。もし読者がリアル「森奈津子」の存在を知らなければ、こういう主人公の一人称小説、ということで終わりだと思いますが、なまじ森先生のことを知ってるだけに、作者名が「森奈津子」となっていても何の違和感も無い。*2 この混乱は何かに似てるなぁと思ったら、媒体は違いますが前にプレイした『.hack』というゲームに似てました。これはオンラインゲームのことを題材にしたオフラインゲームなんですが、境目のつけ方の絶妙さが本作に通じるな、と。ゲームのほうは途中で混乱することもなくなりましたが、小説は読み終わるまでの時間がゲームとくらべ短いこともあって、ずっと混乱しっぱなしです。
頭をからっぽにして面白いトンデモ話を読みたい人にはオススメ。本格推理を目的として読むとちょっと拍子抜け。まぁ本作に本格推理を望む人がどれほどいるか疑問ですけど。どっちかっていうとセクシャルに関する記述が興味深くありました。トランスセクシャル・ゲイとか。*3 私もトランスセクシャル・ゲイかもーと思いつつ、やっぱり二次元の萌えキャラクター(もちろん男)をアンアン言わせたいっていう腐女子思考はこれとはちがうのかな? でも私も生えるものなら生えてほしいものです。擬似男性器。

*1:といっても別にオフ本を出したとかそういうわけではなくて(当時私小学3年生くらいだったし)、この話に出てくるキャラクターを使って自分のオリジナルストーリーを書いていたんです。結局未完だったけど。

*2:本書のところどころで出る森奈津子ヨイショ文章は流石に自身じゃ書かないような内容ですけど

*3:女性が、男性になって男性を愛したいという性志向のことだそうです。反対に男性が女性となって女性と愛し合いたいと思うのはトランスセクシャルレズビアン。最近の二次元世界ではこのトランスセクシャルレズビアンが台頭してきてるのかも。