鬼畜

鬼畜 (二見書房 シャレード文庫)

鬼畜 (二見書房 シャレード文庫)

あまりにも感動したので、久しぶりに単独で感想書きます。『鬼畜』のタイトルに偽りなし。合わない人にはとことん合わず、最後まで読むことができないかもしれないこの一作。最低で最高でした。多少ネタバレを含んでいますので、ご注意ください。

家の中に悪魔がいる―――。大学生の風間文人は育ての祖父母の死をきっかけに実家に戻ることに。二つ年下の弟・達也は文人を歓迎するが、その異常なほどのはしゃぎように薄ら寒いものを覚える。成績優秀で見た目もよく、友達も多いという達也。しかし文人への執着を露わにした達也は家という密室の中、逃げるすべを失った文人を風呂場でやすやすと犯す。実の弟に犯された屈辱に打ちひしがれる文人。しかし兄を精神的支配下に置いた達也の行動はエスカレートし……。(裏表紙あらすじより)

吉田珠姫先生の兄弟ものでは『獣夏』というこれまた弟×兄の近親相姦ものが好きなのですが、そちらの兄弟が血の繋がりという禁忌に対して背徳感を抱いていたのに対して、本作の弟はそんなもの一片も持ち合わせていません。弟の中には「自分」「愛する兄」「その他」というくくりしかなく、兄を手に入れるためならば全ての倫理が崩壊しても構わない。犯罪を犯すことも厭いません。そこまでの覚悟がある・壊れている、ということではなくて、実際にいくつもの犯罪行為に及びます。ここらへんの鬼畜っぷりが無理な人には本当に無理でしょう。読んでるこちらの血の気が引くような所業の前に、従わざるを得ない兄の気持ちもわかります。兄弟ものといえば、攻めが一線を越えてしまう前に、実は受も相手のことを深層心理で愛していて、けれど理性がそれを受け入れられない……それを攻めが強引に越えることで受も自分の感情に素直になり、無事両思い、というのが王道展開かと思うのですが、この作品に関しては「そうだね、こんな弟だったら従ってしまうのも仕方ないな」と兄に同情してしまいました。途中からは兄も開き直るんですけど、どう見ても心から愛してるんじゃなくて、壊れる精神を必死に保つためとしか思えない。いや、もう壊れちゃってるかもしれません。
無邪気を装って兄にべたべた触れたり、弟と距離を置くために呼び寄せた兄の女友達に辛辣な言葉を浴びせかけてズタズタに傷つけたり、とそこらへんは可愛い(?)ものなのですが、この弟の狂っているところは、実の両親にも兄と関係を持ったことをひけらかし、あまつさえその眼前で行為に及ぼうとして、もちろん元からぎくしゃくとしていた4人家族は破滅です。普段は気持ちの悪いほど甘えた口調の弟が、不意に粗暴な言葉遣いになるシーンを読むと背筋がゾクゾクしました。でも甘えた口調のまま、両親の前で兄とのあれやこれを話す場面も最低でよかったです。基本的に弟は終始気持ち悪いです。かろうじてイケメン設定がありますが、初登場シーンから一貫して気持ち悪いです。※褒めてます それでも前半は、兄が弟に心を許しかけてしまうんですが、それってやっぱり家族の情なんでしょう。読んでるこちらとしては、どう考えてもただの罠にしか思えませんでした。罠といえば、一線を越えるシーンがまたすごいんです。気を抜いてるときに襲われるとか、騙されて、とかじゃないんです。一緒に風呂に入ろうと誘われて、そんなことしたら絶対やられるとわかってるのに、そうせざるを得ない状況におかれてやっぱりやられちゃうんです。捕食されるとわかっていながら、頭を垂れてライオンの前に身を現わすウサギのように、犯されるとわかっていながらその身を晒さないといけないんです。どれほどの絶望感なんでしょうね。
個人的に、父親関連は多少蛇足かなと思いましたが、こんなに狂った話を読んだのは久しぶりだったので大変楽しかったです。しかしここまで書いておいてなんなんですが、私はこの話大好きなんですけど、万人向けではありませんので、気になった方も中をチラ読みしてから購入されたほうが良いかもしれません。酷いです。※褒めてます