#05 カナリア

カナリア [DVD]

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ようやくこの作品を見ようと思うまでテンションを持ってこれたので視聴。ベストコンディションで見てよかった…と、最後につくづく思った。無理して見たら胃が悪くなりそうです。
主人公の光一は新興宗教団体・ニルヴァーナの信者の子ども。ニルヴァーナが無差別テロを起こして解体され、子どもは関西の児童相談所に預けられた。光一とその妹・朝子もそこに預けられ、他の子ども達はだんだんと俗世に慣れていくが光一だけはかたくなに拒否。その身元は祖父が引き受けるはずだったが、祖父は朝子だけをつれて東京へ帰ってしまう。光一は妹を連れ戻すため、徒歩で東京を目指す。その中で同じ歳の少女・ユキや同性カップル、そしてかつての信者たちと出会う。
もちろんこの教団ニルヴァーナとはオウム真理教がモデル。ストーリーは東京までのロードムービーの中に、教団生活時の回想シーンが入れられるんですが、本当にこんなのだったのかなぁと思うと痛々しくて見るのが辛い。というのも辛い修業や折檻(教育?)のシーンがずーっとあるわけではなくて、その中でも人間らしい生活をしてるんだけどゆっくりと教団に染まっていく描写がされているからです。
最初は少女・ユキの視点で光一を見るので、ご飯の前にお経を唱えたり(キリスト教でも言ったりするんだからさほど変な行為ではないんだろうけど)頭を触ろうとすると途端に激昂する光一の態度に驚いたり、怖くなったり、ムカついたりするんですが、途中で上記のような回想シーンが入ってしまうので、光一の気持ちも考えられるようになりました。なぜ、光一が教義をかたくなに捨てなかったのか。それは教義を捨てるということは、最愛の母を否定することになるから。もちろんこれだけが理由ではないと思いますが、私はそれが最大の理由だと感じました。子どもだけの道中、もちろんお金がなくなるので万引きしようというユキと、他人のものを盗むのは教義に反すると拒否する光一。けれど話が進むにつれて、ユキが自分を売ってお金を作ろうとすると、俺が万引きすると言い出す光一。ユキと一緒にいることで少しずつ大切なものの順位が変わっていくんですが、後半で元・信者と再会したときの光一の心中は複雑だったろうと思います。
だから私は結局、最後がハッピーエンドだったのかどうかわかりませんでした。素直にあの話をとれば、最後の台詞で前向きに進めるはずなんですが、本当にそうなのかどうか。私はあれ、光一が悟っちゃったんじゃないかなぁと思ってるんですが、1回見ただけじゃちょっとわかりませんでした。
というのも(ここから少しネタバレです)もし前向きのまま終わるのだったら、なぜ光一の髪の毛が白髪になっちゃったかの説明が弱い気がして。ショックによって一晩で白髪になってしまう話とかは聞いたことあるのでありえないことだとは思えませんが、泣き崩れる光一が祖父の家に突然現れた時には吹っ切れてて、さらに祖父に向かって言った言葉。それらを考えるとやっぱり悟っちゃったような…。元信者の「お前にとってニルヴァーナとは何だったんだ」という問いにも答えていないし、後半では教義に従うような描写は少なかったんですが完全に捨てたという描写もないし。教義に叛いて自殺しようとしたシーンはあるけど、あのあとの吹っ切れ具合がまた不安なんですよ。
やっぱり素直に前向きにとらえたほうがいいんですかね。あと気になるのは壊したテレビ。あれ弁償したのかな。エンディングが向井秀徳氏っていうのがツボでした。主人公の子は柳楽くんみたいに雰囲気があってよかったです。他の作品も見てみたい。ユキ役の子は演技が上手いなーと思いながら見てました。