後宮小説

後宮小説 (新潮文庫)

後宮小説 (新潮文庫)

寝がけに読んだら面白くて眠気が醒めたじゃないか、という作品。自分はアニメ版「雲のように風のように」のほうを先に見てはいたんですが、原作がこれってのは知ってたんだけど読む暇なかったからとりあえず見たんだと思う、確か。なのでアニメの影響があるのは否めないです。アニメ見たのももう2年くらい前なんだけど結構内容は覚えてます。原作読んでからアニメだったらまた印象が違ったのかもなぁ。
後宮」という舞台ものは結構好きで、流血女神伝須賀しのぶ)の後宮編も好きでした。どこが好きなのかというと、おおよそ後宮には似つかわしくない、奔放で権力欲がない、女性というよりは女の子と呼ぶほうがふさわしいような主人公が活躍するのが好きなんです。昔から元気な女の子が活躍する話が大好きなんですが、多分その延長。後宮とか大奥でイメージされる女性特有の陰鬱さをカラっと乾かしてくれるような、そういうのがよいんです。
この話の主人公・銀河もまさにそんな感じの少女で、後宮という閉鎖空間に清涼な風をふかしてくれる…だけですまないのがこの話。この話は作者の酒見賢一氏が、実在する史料を元に作った小説、という形をとってはいますがまったくの架空小説。本筋に関係ないエピソードまで詳細に記されているので、歴史に詳しく無い人が読めば本当にあった話かと思うほどだと思います。このエピソードの挿入を煩雑だと思うか、そういう作り方なんだと思うかは読み手次第だとは思いますが、私は結構楽しんで読みました。
そしてこの小説は銀河を魅力的な主人公として描いていますがそれだけではなく、その銀河までもが時代という目に見えない渦に巻き込まれていってしまうのをサラリと、選者(ファンタジーノベル賞の選者のこと)の言葉を借りて言えば、筆者特有の「軽さ」で描いて、それで銀河の魅力を一層引き出してるような気がします。結論だけを見ると、王子様とお姫様が結ばれてハッピーエンドというわけにはいきませんが、銀河の性格を考えるとこの結論が一番幸せなのかも、とも思えてきます。
あとアニメ版との比較では、やはり「後宮」という舞台で欠かせない性的表現の有無が一番かなと感じました。この作品では後宮を国家の子宮に見立て、ゆえにいたるところに性的な暗喩が含まれているんですが、それがまた嫌味なく書かれているからいいなーと思います。出だしが「腹上死であった、と記載されている。」だもんね。
それにしてもこの話を書いた当時、酒見氏は25歳だったというんだからすごいですよね。他の作品も読んでみたいと思いました。